第一章  「人生を変えた一週間」

(全ての始まり)

「冗談じゃねえ~!」
私は、心の中でそう叫んだ。

それは、2004年6月23日のことであった。神奈川県相模原市に在る北里東病院のK医師より「あなたの足が動くことは、無いでしょう!」そう告げられた。

全ての始まりは、一週間前のことだった。


(6月16日)

その日は、朝から左足のカカトと太股に鋭い痺れが走りザワザワと足の中を虫がはう様な表現しがたい感覚を感じた。

この気持ちの悪い感覚は3日間続き、その時はまだ自分の人生を変える出来事が訪れることを予想だにしなかった。


(6月19日)

3日目になると左足の気持ちが悪い感覚に加え、突き刺す様な腰の痛みを感じて、左足は徐々に神経が鈍くなっていた。

その日の明け方、痛みで眠れない私の脳裏に「このままでは歩けなくなる」と不安が過った。
私は不安を振り払うかのように外に飛び出し、朝方のまだ薄暗い道を訳も無く歩いた。
腰の突き刺すような痛みと左足の気持ちが悪い痺れを堪えながら、不安な気持ちをまぎらわすかのようにひたすら歩いた。

1時間程歩いた頃だろうか、突然左足に変な違和感を感じた!その直後に左足が急に動かなくなった。長時間正座をして足が痺れる感覚である。ほんの5cm程の縁石ですら手で足を持ち上げないと乗り越える事が出来ない。

不意に「帰れなくなる」そんな予感がした。

右足で感覚が麻痺した左足を引きずり、5分程の帰り道を30分掛けて漸く家に着いた。
這う様に部屋に入ると力尽きてリビングの椅子にもたれかかり、ひたすら痛みと不安に耐えた。
左足は痺れた状態で自らの力で膝を曲げることが出来なくなっていた。
一息付き、尿意を感じてトイレに向かうが歩くことが容易では無く、這ってトイレに向かった。
漸くトイレの便座に腰を下ろすが、尿はタラタラと雫の様に垂れ流れるだけだった。
お腹は尿が溜まってるせいかポッコリとふくれている。

体の異変が尋常で無いことを悟った私は、家から5分程のところにある黒河内病院に行くことにした。
T医師に状況を説明してレントゲンを撮った後、膀胱に溜まった尿を抜いた。
カテーテルを尿道に差し込む。想像するだけで痛いイメージがして顔をしかめるが、まるで感じない。ただ気持ちの悪い感覚は脳裏に残った。

T医師にレントゲンの結果を聞くと、「はっきりした事はまだ分からないが、入院する必要が有る」と言われた。
この時、私の左足は麻痺して自力で歩行す事が容易では無かったが、病院嫌いを良いことに入院を拒んだ。
T医師はしぶしぶ帰宅を承諾し、歩行が困難な私に車椅子を貸してくれた。

初めて乗った車椅子は、とても不便で乗りにくく感じた。


(6月20日)

朝になると左足はほとんど動かなくなっていた。

ツネッてもくすぐってもまるで感じない。右足の神経も徐々に薄れて行くのが分かった。
ただ気持ちの悪いザワザワした痛みだけは、強く感じることが出来た。

昼を過ぎた頃、父が東京から駆け付けた。
皮肉にもその日は父の日!年老いた父にとって独り息子の足が動かないことを聞きショックを隠しきれない様子だった。

心配を掛けまいと笑いながらことの流れを話す。父は言葉少なげに私の話しに耳を傾けていた。
しばらくすると、父と私は口数も減り、ただ時間だけが過ぎていく・・・。

やがて日も落ちた頃、父が重い腰を上げて「そろそろ帰るぞ」と言った。私は、その言葉にうなずき、「俺は心配要らないから、気を付けて帰って」と返した。

その時の父は寂しげで、私の声を背中で聞き流し、振り返ることはなかった。

肩を落とし、玄関に向かう父の背中が小さく見えた。
そんな父の姿に何故か涙が溢れてくる。

クッションに顔を埋め流れる涙と声を押し殺した。
私の頭の中では、幼い時に父と2人だけで生活していた想い出が蘇っていた。
そんな記憶の中では、子供の私はハシャギ回り父の笑顔がそこにあった。

父の背中を後押しするかの様に、関東には台風6号の影響で強い風が吹いていた。

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